世界で活躍する16人の建築家やデザイナーの設計で、性別、年齢、障害を問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレが区内17か所に設置されました。このトイレを舞台にした映画「PERFECT DAYS」も制作されています。本講座では設計者の紹介と各トイレのコンセプト、建築上の特徴などを詳しくご紹介しながら、全17のトイレを4つのブロックに分けてめぐります。今回第2回は裏参道公衆トイレから神宮通公園トイレまで、3つのトイレをまわりました。今回は立ち寄るトイレの数が少なかったため途中にある東郷神社も参拝しました。
まずは裏参道公衆トイレを訪れました。
デザインはマーク・ニューソン氏(インダストリアルデザイナー)。
同世代で最も影響力のあるデザイナーの1人と評され、幅広い分野で活躍し、クライアントにはLouis Vuitton、Montblanc、Hermès、Nike、Dom Pérignon、Jaeger-LeCoultre、Ferrariなどの企業が名を連ねる。Qantas Airwaysのクリエイティブ・ディレクター(2005~2015)やApple Watchのデザインに関わって以来、Appleのスペシャルプロジェクト担当デザイナーも務める。
マーク・ニューソン氏談
私のデザインは、銅製の「蓑甲(みのこ)屋根」をはじめとする日本の伝統的な建築の引用が中心となっています。トイレが賑やかで超近代的な場所にあっても、神社仏閣や茶室、農村部などによく見られるこの屋根の形が、潜在的に心地よさや安らぎを感じさせるものにしたいと思いました。銅のピラミッド型屋根の緑青は、時とともにこの建築物を街に溶け込ませ、東京を織りなす構造の一部となることでしょう。私にとって、このトイレは内からも外からも信頼でき、誠実さが感じられるデザインであることが重要です。明るい内装は、私の好きな色であるグリーンの単色でシームレスかつ衛生的に仕上げられています。このトイレのデザインでは機能性、シンプルさ、そして心地よく永続的な空間であることに重点を置いています。渋谷にたくさん存在する隠れた名所のように、このトイレが魅力的でとても便利な存在になることを願っています。
続いて、神宮前公衆トイレ THE HOUSE を訪れました。
デザイナーはNIGO®氏(ファッションデザイナー/クリエイティブディレクター)。
90年代に自身が立ち上げたファッションブランドが世界中を席巻し、ストリートカルチャーのパイオニアとして有名に。ライフスタイル全般のクリエイションは世界中で高い評価を得る。2010年からはHUMAN MADEのデザインをメインに、LOUIS VUITTONやadidasからも自身のコレクションを発表。ほかにもCyberAgentやJINSのサングラス部門のクリエイティブ・ディレクターを務める一方、飲食店舗 CURRY UPや日本酒ブランド SAKE STORM COWBOYのプロデュースなども手掛ける。米国のユニバーサルミュージックと契約し、音楽の分野でも精力的に活動中。2021年9月、KENZOのアーティスティック・ディレクターに就任。
NIGO®氏談
コンセプトは温故知新。まずはなによりトイレとしての入りやすさと使いやすさを第一に考え、高いビルが建ち並び、日々変わりゆく東京とは対照的に、原宿の片隅にひっそりと建つ、古き良き一軒家をイメージしました。世代によって、トイレを使われる方が懐かしくも感じ、新しくも感じていただけるようなデザインです。
訪問した際は、ちょうど清掃が行われていました。清掃は1日3回行う通常清掃、1カ月に1回行う定期清掃、年に1回の特別清掃と3つの種類に分け、さらに月に一度、第三者機関であるトイレ診断士による診断を行っているそうです。NIGO®氏はトイレの清掃員が着用するユニフォームのデザインもしています。
途中、東郷神社に立ち寄りました。
御神体は日露戦争の日本海大海戦でロシアバルチック艦隊を殲滅した連合艦隊司令長官・東郷平八郎(1847~1934)。昭和9年に東郷提督が死去すると、故人が神格化されるのを固辞していたにもかかわらず世界的英雄を顕彰する要望が全国から相次ぎ、「財団法人東郷元帥記念会」が設立された。こうして神社の創建が計画され、昭和12年9月に地鎮祭、昭和15年5月27日(海軍記念日)に鎮座祭が行われて現在に至っている。本殿は戦災で焼失したが昭和39年再建。このとき東郷提督を尊敬していた米海軍ニミッツ提督は、自著『太平洋海戦史』の日本語版の謝礼金を「アメリカ海軍の名において東郷神社再建奉賛会に寄贈したい」と申し出たという。神殿は東郷元帥が海軍提督であったことから「海の宮」と呼ばれ、回廊には元帥の生涯を紹介するパネルが展示されている。境内には太平洋戦争中に戦没した潜水艦乗員(回天決死隊を含む)の慰霊碑「潜水艦殉国碑」や、14歳の若年兵を悼む「海軍特年兵之碑」。他に東郷邸の蔵や東郷会館などがある。
最後に神宮通公園トイレ あまやどり を訪れました。
デザイナーは安藤忠雄氏(建築家)。
1941年大阪生まれ。独学で建築を学び、1969年安藤忠雄建築研究所設立。代表作に「光の教会」「ピューリッツァー美術館」「地中美術館」など。1979年「住吉の長屋」で日本建築学会賞、1993年日本芸術院賞、1995年プリツカー賞、2003年文化功労者、2005年国際建築家連合(UIA)ゴールドメダル、2010年ジョン・F・ケネディーセンター芸術金賞、後藤新平賞、文化勲章、2013年フランス芸術文化勲章(コマンドゥール)、2015年イタリアの星勲章グランデ・ウフィチャ―レ章、2016年イサム・ノグチ賞など受賞多数。1991年ニューヨーク近代美術館、1993年、2018年パリのポンピドー・センターにて個展開催。イェール、コロンビア、ハーバード大学の客員教授歴任。1997年から東京大学教授、現在、名誉教授。
安藤忠雄氏談
小さな〝あずまや〟なりに、公共トイレという機能だけではない、都市施設としての意味、パブリックな価値を持つものでありたい。そのもっともシンプルかつ明快な回答として、円形平面の棟から、屋根庇が大きくせり出し縁側をつくる造形を考えました。安全で安心な空間とするため、外壁は風と光を通す縦格子とし、利用者が円形を描くその壁に沿ってぐるりと通り抜けられるようになっています。『神宮通り公園』の木々の緑の中にひっそりと佇むこのトイレ、名付けて『あまやどり』です。
第3回、第4回は梅雨の時期と夏の暑さを避けて、10月以降に実施いたします。
今後も皆様の学びの好奇心を満たす一助となれるような講座を企画していければと思います!
ハチコウ大学講座
ハチコウ大学講座「----トイレめぐり----THE TOKYO TOILET~全17のトイレめぐり~第2回 裏参道から神宮通公園」を開催しました
公開日
令和7年 5月12日(月曜日)
